サラリーマンのかたわら、別会社の役員をする。いいのかな?と一瞬躊躇する方も多いのではないでしょうか。
家族の会社。友人の会社。あるいは個人的に副業ビジネスとして…。いずれにせよ「役員」という肩書が気になるところです。
本業の会社との間で問題になることはないのでしょうか?
この記事では、「サラリーマンが別会社の役員をすることは問題ないのか」や「できるだけ本業に差し支えない方法」を解説いたします。
本業が続けづらくならないよう、全体像や注意事項を把握してから判断してくださいね。
サラリーマンが別会社の役員をしていいのか?


副業で、別会社の役員をしようと考えています。
ただ、直感的に、本業の会社との間で揉める気がして…。
問題ない場合と問題がある場合があります。
今から見ていきましょう。

法律上はOK。会社の副業規定を確認しよう。
本業の会社とトラブルにならずに安心して役員をするには、まず以下の考え方を把握しておきましょう。
考え方
- まず、法律上は別会社の役員をしても問題ない。
- 本業の会社の副業規定に反しないかを確認。
- 副業規定に反しないがバレたくはない場合、バレないよう対策を取る。
まず前提として、サラリーマンが別会社の役員をすること自体は、法律上は問題ありません(職業選択の自由)。
第二十二条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
引用:日本国憲法22条|e-Gov法令検索
最終的には、アルバイトなど通常の副業の場合と同様、「会社の副業規定に反しないかどうか」が問題となります。
さらに、会社が副業を認めていても堂々と副業しづらい場合は、可能な限り対策を取っていきます。
▼ 会社設立して経営側になる方、副業で役員としてコンサルティングをされる方には、こちらの記事が役立ちます。ぜひご覧ください。
そもそもあなたは「役員」になるのか?

「偉い人」みたいなおおざっぱなイメージしかなくて…。
役員は、「代表取締役」「取締役」「会計参与」「監査役」などのことで、法律上の役職です(会社法)。
要は、従業員側ではなく経営者側です。
株主総会で選ばれるんですよ。

自分は役員に該当するのか?自信がない方は、役員となる会社の方にしっかりと確認しておいてください。
更に詳しく
- 仕事の対価として役員報酬を受け取る(仕事をしてないのに受け取るのはNG)。
- 「専務取締役」「常務取締役」などは、ビジネス上の役職。会社法に当てはめると「取締役」に該当。
- 会社法上の役員と、税法上の役員(収入を役員報酬として扱うのか従業員の給料として扱うのか)では範囲が異なる。
【副業規定】役員をしてもいいか?実際に確認しよう

トラブルを防ぐためにも、本業の会社がどのように考えているのかを知っておかなくてはなりません。
副業禁止の範囲
- 副業が全て認められる
- 【禁止例1】役員はOKだが、アルバイトなどはNG
- 【禁止例2】役員もアルバイトもNG など
副業規定は、会社の「就業規則」で確認できます。
そもそも副業って禁止していいの?
【禁止例1】役員はOK、アルバイトはNG
アルバイトなど、別会社に雇用される場合のみ制限するパターンです。
役員とアルバイトはどう違うのか?
役員・・・委任契約(対等の契約で仕事を任される。労働法で守られない)
アルバイト・・・雇用契約(雇われて仕事する。労働法で守られる)
【禁止例2】役員もアルバイトもNG
就業規則で禁止する副業を「他社に雇用、役員に就任」と、明記しているパターンです。
この場合、役員もアルバイト(雇用)も、両方禁止です。
「名前だけの役員」「役員報酬ゼロ」も副業禁止対象か?

名前だけの役員は副業とは言えない気もしますが…、ダメなのでしょうか?
結論から申し上げますと、「会社と揉めるリスクはある」といえます。役員報酬を全くもらわない場合も同様です。
役員の副業が禁止されるかどうかは、「会社の規定や判断に合理性があるか」を「実質」で判断します。登記や報酬といった、形”だけ”では判断できないのです。
実際に、裁判では以下の場合に副業禁止を認めています。
各企業においてそれを制限することが許されるのは、
労務提供上の支障となる場合、企業秘密が漏洩する場合、企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合、競業により企業の利益を害する場合
引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省HP
上記の厚生労働省のガイドラインには、裁判例もいくつか載っています。
裁判では、立場や人間関係なども踏まえた「実質」を考慮するようです。

とはいえまずは会社がどう判断するかの問題ですので、たとえ名前だけでも、役員報酬ゼロでも、処分(最悪の場合解雇)される可能性はあります。
その後、裁判により処分を無効とすることは可能です。
就業規則の確認方法
以下のような場所で、全従業員に向けて公開されています。
就業規則が見られる場所
- 従業員が確認できる場所に掲示
- 各従業員に配布
- 共有サーバーで公開 など
※ 従業員が10人以上の場合、公開は義務。
参照:労働基準法89条|e-Gov法令検索
会社バレを防ぐ対策をしよう

たとえ会社が副業を認めていても、堂々と副業はしづらい方も多いのではないでしょうか。
会社にバレるパターンはある程度決まっています。対策をしておくと安心ですね。
100%バレないわけではありません。問題のない範囲で副業しましょう。
【最初に】バレる原因を知っておく

役員ですし…、普通の副業とはなんだか違う感じがします。
同じ部分と違う部分があります。
今から見ていきましょう。

よくあるバレる理由
【1.登記 2.住民税 3.社会保険】
- 本業の会社関係者に登記を見られる(会社の登記は公表され、役員名が載っているため)
- 本業の会社で住民税の給与天引き額が変化する(副業による収入増のため)
- 本業の会社に、副業収入を記載した社会保険の通知が届く(本業・副業の給料を基に、社会保険料を算出し徴収するため)
【その他】
- うっかり口にしてしまう
- 会社の人に見られる、耳に入る
1.登記だけが役員特有のものです。
他は一般的な副業と共通の内容ですね。

これらのうち、徹底的に他人に言わない、インターネット上に書き込まないなどは、最低限ご自身で徹底しましょう。
オフィスへの出入りや街中での会議、あるいは知人・取引相手から漏れるなどの危険もケアが必要です。
意外にも「副業している現場を見られる」「うっかり口が滑る」は非常に多いです。気をつけましょう。
【登記が気になる人へ】登記が見られるリスクは?
会社の名前や所在地、そして役員の名前は、オンラインで公表されます(登記)。登記は義務ですから、役員になれば名前が公表されることになります。

登記が公表されているのは確かにリスクを感じますが、実際に登記を見られることはあるのでしょうか?
本業の会社の関係者に偶然登記を見られる可能性は、あまり高くはありません。本業の会社の関係者が、役員をする別会社の情報を意図的に検索した場合は、間違いなくバレてしまいます。
ですから、バレる可能性をゼロに近づけたい場合は、検索されるリスクが低いか?の判断が必要です。
ちなみに、登記はこちらのサイトで誰でも簡単に見ることができます。
正式な登記の書面やデータが欲しい場合は、法務局や法務省に対して請求をします。
登記は絶対しなければならない?
役員は登記が義務付けられており、登記せずに役員になることはできません。
役員登記を怠った場合は、会社法の規定により罰金(過料)を支払うことになります。
(過料に処すべき行為)
第九百七十六条 ・・・取締役、会計参与・・・は、次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。
一 この法律の規定による登記をすることを怠ったとき。
引用:会社法976条1項|e-Gov法令検索
それでは、本質的な対策である【1.登記 2.住民税 3.社会保険】についてお伝えします。

役員の立場が求められる場合の対策
友人や家族から「会社を設立するから、名前だけでいいので役員になってほしい」と頼まれた。
このような場合は、大抵「登記に名前を載せること」が求められています。
登記によって会社にバレるリスクはどうしても残ります。
登記に名前を載せてほしいのは、会社設立時に必要な役員数が定められているなどの理由からです。
【対策】役員報酬をもらわない
役員報酬を一切もらわないことで、住民税と社会保険の対策が同時にできます。
まず、副業収入がないので住民税の金額が変化せず、副業による収入増を疑われません。
さらに、役員報酬がない場合は社会保険には加入しなくて良いので、社会保険の通知が本業の会社に届くこともありません。
そもそも、役員としての仕事をしていないのに役員報酬を受け取ると、税務署から問題視される可能性があります。
役員的な仕事内容が求められる場合の対策
依頼されている仕事内容そのものが重要である場合は、役員にならずとも目的を果たせる可能性があります。
また、名前だけでなく実際に仕事をして役員報酬をもらうので、住民税対策が必要です。
【対策1】登記しない(外部の人間として仕事する)
会社内に入り役員となるのではなく、外部の人間として業務を請け負います。
これにより、仕事の役目を果たしつつ、登記から副業がバレるリスクをなくすことが可能です。
【対策2】役員報酬分の住民税を自分で納付する(普通徴収)
住民税でバレる仕組み
本業の会社から給料をもらう際、住民税は会社が給与天引きし、あなたの代わりに納税してくれています(「特別徴収」といいます)。
副業で収入が増えた場合、市区町村から本業の会社に「副業収入分を含む住民税額」が通知されます。
給与天引きする住民税の金額が増えているため、会社の担当者が「あれ?副収入があるのでは?」と勘づく可能性があるのです。
対策として、副業の役員報酬分の住民税のみ、自分で納付する方法を取ります(「普通徴収」といいます)。
確定申告の際に、以下のように記入するだけで手続きできます。

100%普通徴収にできるとは限りません。特別徴収しか出来ない市区町村もありますので、確定申告後に市区町村に念押しすると確実です。

確定申告が出てきましたが、役員報酬をもらったら確定申告が必要になるんですか?
社会保険の話も出ていましたが、加入は必須なのでしょうか…?ややこしい…。
それでは、確定申告と社会保険の話を最後にしておきましょう。

役員として確定申告と社会保険加入は必要か?

確定申告や社会保険は、副業をする際に必ず関わってくる、面倒に思われがちな問題です。
確定申告 → 役員報酬が20万円超なら必要
一般的な副業と同様、副業収入(役員報酬)が20万円を超える場合は、確定申告が必要です。
さらに詳しく知りたい方は下の国税庁HPをご覧ください。
同族会社の役員の場合、役員報酬が20万円を超えなくても確定申告が必要な場合があります(お金を貸し付けて利子をもらった場合など)。
社会保険 → 常勤性が高い場合は加入
別会社の役員として「常勤性が高い」と認められる場合は、別会社で社会保険に加入する必要があります。
常勤性の判断方法
常勤性の高さは、以下の基準で総合判断します。
- 定期的な出勤しているか
- 役員会に出席しているか
- 従業員にどの程度指示・監督しているか
- 役員との連絡調整の状況
- 会社に対する意見・影響力
- 会社から報酬が支払われているか

これで問題ない形で役員ができそうです!
ありがとうございます!
本業も、他のやりたいことも、大切にしてくださいね。
応援しています。

まとめ
この記事では「サラリーマンが別会社の役員をすると、本業の会社とトラブルにならないのか?」と、その「トラブル対策」をお話してきました。
ポイント
- サラリーマンが別会社の役員をするのは、法律上は問題ない。会社の副業規定を確認し、問題ないなら役員をする。
- 会社にバレたくない場合は、登記・住民税・社会保険などの対策をする。
人生、やりたいことは色々ありますよね。人それぞれ事情もあります。
本業に差し支えない形で、安心して役員をしていかれることを願っております。