コンサルティング契約(アドバイザリ契約ともいいます)で、契約書を作成するときの注意点、また成果物等の重要項目をどう記載すればよいのか、ドラフト作成に苦戦していませんか?
契約書ドラフト作成の注意点をこの記事ではわかりやすく解説していきます。
Table of Contents
コンサルティング契約!成果物はどう盛り込む?
契約には形態が大きく分けて二つあります。
- 請負契約
- 準委任(委任)契約
コンサルティングは、法律行為は委任、それ以外は準委任として整理されています。それは、下記で説明する「業務が完成すること」ではなく、技術や知識、アドバイスをクライアントに提供し、ビジネスをよくしていくというサービス内容のためです。
ではコンサルでは請負の形態をとらないかといえばそんなことはなく、コンサル業務が成果物のある業務なのかどうかでも大きく変わってきます。
後の理解を深めるため、先に契約形態について解説します。
請負契約
請負契約とは、「納品物を完成させ、その対価を得る」契約です。
民法第632条でも以下のように定められています。
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
引用:e-Gov法令検索
そのためコンサルティング契約で、請負案件として作成するのであれば納品物が何になるのか具体的にしておかなければなりません。また、請負案件は完成後に対価が支払われるので、資金繰りも気をつけておきたいところです。
準委任契約
対して、準委任とは「納品物を完成させるべく取り組むことで対価を得る」契約です。
民法第643条でも以下のように定められています。
委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。
引用:e-Gov法令検索
行う業務が法律行為でないのであれば、上記「委任」に準用するとして準委任案件として用いられます。
完成しなくても報酬がもらえるのならば、準委任で受注すると楽なのでしょうか。その点は注意が必要です。なぜなら民法によって定められた「善管注意義務」があります。
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
引用:e-Gov法令検索
受任者とは仕事を受けた側、すなわち受注側です。受注者側はその能力や技術が通常要求される範囲内で取り組む義務があります。
もちろん、クライアントの期待に応えられなければ契約終了になることも考えられるため、善管注意義務違反にならないよう真摯に取り組むことが求められます。
▼契約もだけど、集客についても悩んでいる…そんな方はこちらの記事もご覧ください。
コンサルティング契約における成果物とは
成果物の有無で、上記の請負と準委任を判断すればよいと上記でお伝えしてきました。
請負案件は、成果物がありますが、具体的な成果物なしの準委任案件では、レポートや報告書等を成果物とすることもよくあります。そのため、報告書等の提出を契約書で定めておき、それをもって報酬を支払ってもらうような流れにしておくとスムーズです。
例えば数か月にわたる案件なら、「毎月月末に報告書を提出して、その受領書や完了書、検収書を〇日後までに回収し、請求書を発行する」といった感じですね。
この「受領書や完了書、検収書」については、クライアント側は交付の拒否はできないので必ずもらうようにしましょう。書面に書かれていなくても同様です。
押さえておきたい重要項目
契約書に必須の重要項目はこちらです。
- 業務の内容・範囲
- 契約期間
- 報酬(支払方法やその期日など)
- 業務上で発生した費用負担(コンサルタント側の交通費等)
- 成果物の利用について
- 秘密保持義務
- 責任制限
- 再委託について
- 権利義務の譲渡禁止
- 契約解除
- 反社会的勢力の排除
こんなに項目があるんですね!
業務の内容・範囲
契約書作成前に、受託するコンサル業務に何が含まれるのかを改めて明確にしておきましょう。
「コンサルタントが対応する業務とそれ以外」を明確に区別しておくと後で揉めないので、細かく契約書に記載するようにしましょう。
細かく書いておいたつもりでも漏れていることがあるので、漏れを防ぐために「そのほか上記に付随する業務」として記載している契約書はよく見かけます。
契約期間
契約期間に加えて、自動更新の有無や契約終了後の効果についても記載しておきましょう。自動更新を付けることを忘れても覚書で対応することもできます。
契約期間が終了したとき、他の条件は変わらず期間延長だけしたいような場合は、覚書を作成して対応すると簡単です。
法人顧客は金額や期間などの契約内容の変更がある場合、基本的に再度契約書を巻きなおすことはせず、覚書を作成することで対応しています。
報酬(支払方法や期日)と業務上の費用負担(交通費等)
報酬の支払い方法やその期日、またその業務にかかる費用の負担は、受注側と発注側のどちら負担なのかも明記しておきましょう。報酬の条項で諸経費についてもふれてしまってもよいですね。
ちなみに、契約書作成の際に添付する印紙代は、契約書を双方保管するため双方が負担します。
契約書の印紙代までは契約書にあまり書かないのですが、業務上、発生する実費の部分は必ず定めておきましょう。
成果物の利用について
利用方法にはいくつかパターンがあり、知的財産権の所在をどこにするのかによって利用する自由度が大きく変わってきます。
成果物の利用は
- 知的財産権は作成者に残したまま
- 知的財産権ごと買い取りして使用
- 権利を持ち分均等にする
上記3つのパターンが考えられます。
知的財産権ごと買取して使用される方が報酬は高くなる傾向にありますが、利用するごとに利用料をいただく形で使用する方がメリットが多いと判断すれば知的財産権は作成者に残したままにしておきましょう。
知的財産権が発生するような案件では、契約書作成時にクライアントと齟齬のないようにしておきたい事項です。
秘密保持義務
案件によっては契約を結ぶまでの間に、案件説明などでお互いに秘密情報を開示する場合があります。
その場合、契約するまでは商談が成立するか未確定です。コンサルの契約書に先がけて別途、秘密保持契約書(NDAともいいます)を結んでおくとよいでしょう。
もし、商談がまとまらなくても秘密保持は保たれるので安心です。最初の商談の段階からNDAを結んでおくのがベストです。
責任制限
損害賠償対象の損害の種類を限定して、賠償額の上限を設定しておく条項です。主に以下の内容をまとめましょう。
- 賠償する損害の種類
- 損害額はいくらまでか
- 第三者からの損害賠償請求はどうするのか
競業避止義務
同業他社との契約を請け負わないようにする趣旨の条項です。コンサルタント側に不利な条項なので、同業他社を細かく指定して範囲を限定するようにしましょう。
再委託
コンサル業務に伴い再委託しようと考えている場合、再委託条項は必須になります。基本的に準委任案件は再委託できません。しかし発注側の許可があれば協力会社などに依頼できます。
受託側からは再委託した方が有利になるので、この条項で再委託の可否を設定しておきましょう。
契約解除
契約期間中でも案件が途中終了することがあります。残り期間分の報酬や、費用負担はどちらが負うか定めておきましょう。
反社会的勢力の排除
相手方が反社会的勢力だったことが分かった場合に、打ち切りとする旨を定めておきましょう。
契約書を作成する際の注意点
ここまでコンサルティング契約の成果物や契約書作成についてお伝えしてきましたが、実はコンサルティング業務には契約書作成の義務はありません。双方の同意があれば、口約束でも契約は成立するのです。
ですが、契約書を作成しておけば書面に残るので安心できることは言うまでもないでしょう。これは大きなメリットです。では、より安心できる契約書を作成するために注意すべきことには、どんなことがあるのでしょうか?
業務範囲"外"のことも定めておく
業務の内容・範囲を定めることは基本ですが、業務の範囲"外"とする内容も定めておくと、お互い明確に業務範囲を認識することができます。
不本意ながらコンサルティング業務を「なんでも屋」と勘違いされているケースがあることも事実なので、無理難題を押し付けられないようなリスク管理の観点からも、明記しておくと安心ですね。
「クライアントの成果につながること」のみに注力するためにも、業務範囲"外"のことを定めておくのは有用です!
不利な契約になっていないか確認する
コンサルは、明確な成果といえるものがありません。そのため、締結前にしっかりと双方で何が成果にあたるのかを明確にしておくことが大切です。
ドラフト作成が難しい場合は、先方のひな形を使用するのもよいかもしれません。
顧客が法人であれば基本的には用意されているはずです。そのときに注意しておくことですが、先方のひな形は基本的に先方が有利なように作成されていることです。
このように法人顧客と取引することは、あなたのビジネスにとって大きなメリットがあります。よければこちらもあわせてご覧ください。
先方のひな形を使用する場合は内容をよく読み、発注側が不利な内容については修正を依頼しましょう。
まとめ
コンサルを生業とする方が、契約書作成の際に注意しておくことをまとめました。
ポイント
- 準委任契約にあたるような成果物がない契約の場合は、報告書やレポートを成果物とする
- ドラフト作成に時間がかかるようなら先方のひな形を使用するのも手
契約書の作成は慣れればそう難しくはないものの、慣れないうちは難しく、なおかつ不備があると将来の大きなリスクとなります。
法人顧客を相手に契約交渉は大変な作業ではありますが、しっかりチェックして進めたいですね。
法人顧客獲得に向けてこれから大きく動きだしていこうとしている方には、契約書を作成できる知識は必須です。これを機会に一歩踏み出して現状のビジネスを大きく変えてみてはいかがでしょうか。